2013年06月15日

生乳(非加熱・非均質化処理牛乳)の話

 私の住むフランス、ローヌ・アルプ地方のイゼール県、グルノーブルエリアでは無殺菌牛乳(生乳)が手に入ります。スーパーマーケットには売っていませんけど、Bioショップや生産者直売のマルシェにはあります。 こちらに来て以来、スーパーで普通に売っている成分無調整のパスチャライズド・ミルクが美味しいので、主にこれを飲んでいましたが、それでも朝冷えた牛乳飲むと後から腹がゴロゴロして、時には下したりするので、コーヒーやシリアルに入れたり、ミルクティーにしたりなどがほとんどで、牛乳をそのままゴクゴク、と言うのは滅多にしませんでした。
 最近、子供のうちはともかく、年をとる毎に乳糖(ラクトース)が分解できなくなるので、牛乳は飲まないほうが良いという話を目にしますけど、成る程そうかもしれない、と思います。牛乳有害説には、あまり賛同できませんが。
 それとは別に、牛乳は高温で殺菌するほど成分が変質して体に良くない、という話もあります(昔『美味しんぼ』でも取り上げてましたね)。普通の牛乳は、120〜130℃でホンの数秒、一瞬で過熱する殺菌方法で、これは超高温滅菌牛乳というのだそうです。
 パスチャライズは低温殺菌で63〜65℃で30分間加熱、だそうです。他にこの中間的な高温殺菌牛乳というのがあって、70〜85℃くらいで十数秒間加熱したものを指すそうです。殺菌方法は日本だと牛乳パックの後ろに何度で何分とか何秒とか書いてありますね。
 ここで無殺菌牛乳(生乳)が登場します。搾りたて牛乳というのは、当然無菌できれいです。そりゃそうですね。搾りたての牛乳に有害な菌が入っていたら、それ、病気に感染した牛です。菌は絞った後の行程で付着し、繁殖するのでしょうね。
 で、この生乳、味も香りも、普段飲んでる加熱殺菌牛乳とは別物です。今まで牛乳の匂い、と思っていた独特のあの匂い、ありません。香りに集中すると、かすかに牧場の匂いを感じる程度。飲んだ感じも、口の中にふわっと広がる感じで、喉越しも柔らかい。朝、良く冷えたものをゴキュゴキュ飲んでも、腹は、全くゴロゴロいいません。下りません。と言うことはつまり、加熱殺菌のせいで、成分(タンパク質や乳脂肪)が体に悪いものに変化してしまうのかも知れません。
 そして生乳は、買ってから4〜5日経つと、味が変化します。酸味が出てくる、つまり乳酸菌発酵が始まります。これ、飲んでみましたが問題ありませんでした。味はヨーグルト。蜂蜜など混ぜれば、美味しくいただけます。コンディションによっては乳清と固形分すなわちチーズに分離することもあります。
 牛乳は、均質化処理したもの(ホモジナイズド)としていないもの(ノンホモジナイズド)があります。昔はホモ牛乳、ノンホモ牛乳と呼んでましたが、ホモという単語が同性愛を指す意味で使われるようになってから、ホモ牛乳という言葉を目にしなくなったかもしれません。
 さて、ノンホモ牛乳というのは、大抵低温殺菌牛乳である場合が多いのですが、これは静置して暫く経つと、上部にクリーム成分が浮いて固まってきます、これを分けて取り出せば美味しい生クリームとして、料理や菓子作りに使えます、量があればバターも作れるそうです。昔バターやアイスクリームの作り方を図解で解説した子ども向けの本があって、それ読んで作ろうとトライしたけど、いつまで待っても牛乳瓶の上にクリームが集まらず、作れませんでした。あれ、古い本だったので、まだホモジナイズド牛乳が登場する前に書かれたものだったのですね。大昔はノンホモが普通だったんでしょう。いい時代だなぁ。
 で、此処で無殺菌牛乳(生乳)が再登場します。生乳は絞ったままのミルクなので、加熱もしていなければ均質化処理もしていません。当然静置して時間が経てば、乳脂肪分が上がってくるのですが、不思議なことに加熱殺菌牛乳のようには、固まらないのです。瓶の内側にクリームが付着するのですが、瓶を振ると再びミルクに溶け込んでしまいます。加熱は脂肪分も変化させていたようです。でもよく考えたら肉の脂だって、一度加熱して溶けてから冷え固まったものは、元の脂の様には戻らないし、溶かしたバターも同じく、完全に元の姿には戻りませんよね。と言うことは、ここから生産される乳製品も、原料の牛乳が生乳か加熱処理乳かで質が違うことになります。
 そこで思い出したのが今年1月にアメリカで食べたフランスのチーズ。これがフランスで普段食べているものとは別物なのです。正直、美味しくない。フランスのスーパーで売っている大量生産品でさえ、はるかに美味しい。これには理由がありました。
 アメリカではフランスのチーズの輸入は制限されています。なぜかというと、州にもよるのですが、例えばカリフォルニア州では、なんと無殺菌や低温殺菌牛乳とその加工品は輸入も販売も禁じられているからなのです(!)。
 つまりカリフォルニアで売っている輸入チーズは、全て高温殺菌牛乳によって作られたものだけ、らしいのです。で、これが美味しくないのです。フランスで普通に売っているものとは(多くはは低温殺菌牛乳が原料だと思います)全く別物です。日本の牛乳だって、低温殺菌と高温殺菌、飲み比べたら味の差歴然です。加熱処理は牛乳の味や性質を相当変えてしまうようです。
 フランスにはフロマージュ・ブランという、乳脂肪防分の多いヨーグルトに似た発酵乳製品があります。これ、あまり好きじゃなかったのですが、ある日、農家で直販していた非加熱乳が原料のものを食べたら、全く別物なので驚きました。味もまろやかだし、舌触りからして、違います。
 勿論チーズも。スーパーの大量生産品よりチーズ専門店のもの、それよりさらに農家直販のものが美味しいのですが、これは恐らく、製法だけでなく、原料乳の加熱(高温・低音)・非加熱が大きく影響しているような気がして仕方ありません。私の住む地方ではトムというセミハードタイプと、ロブロションという、日本でお馴染みのカマンベールに似た白かびソフトチーズがローカルのチーズとして代表的なのですが、生乳を扱う生産者直売店で、同じ牛乳から作ったこれらのチーズを買って食べたら、今まで食べていたのと別物のように美味しくて(濃厚でまろやか、香りがいい)、私もうそれ以来病みつきです。生乳で作ったロブロションタイプのものは別の呼び名があるそうです。
 そんな訳で、フランスに限らず、非加熱・非均質化処理の生乳が手に入る地方に住んでいらっしゃる方々で、まだこれを未体験の方々は、是非是非お試しあれ。
 因みに値段ですが、私が買っているのは1リットル僅か1.2〜1.3ユーロ、スーパーのパスチャライズド・アンティエと大して変わらない値段です。勿論チーズも。
posted by ubuman at 15:19| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス情報