フランスに限らず日本でも、いや日本のほうが多いかも知れませんが、企業の経営者には、自分の金と会社の金の区別がつけられない人がいますね。
私がいた会社も同じく。それで多くの社員がうんざりしてました。自分達の給料の倍以上するような調度品を社費で購入して、それが会社に届いた日にゃあ・・・
社用車も、社長夫人が私物化していて、必要な時に社員が使えないという始末。そりゃみんな、やる気なくなりますよね。
でも、フランスではCDIと呼ばれる終身雇用契約を結ぶと、雇われた側は非常に強い立場になり、余程会社に損害を与えない限り、解雇されることもありませんし(損害を与えたと会社が判断しても、会社はそれを証明する義務があります)、給料は毎年少しずつ上がります。この身分は、普通手放しませんが、それでも辞めていく同僚が跡を絶たないのです。
前回書きましたが、外国人を雇って、フランス政府が外国人に課す義務の遂行(市民セミナーの受講、仏語教室に通うなど)を勤務時間内にすることを一切認めなかったくせに、自分が株主達から要求された経営のノウハウセミナーには、平気で勤務時間内に通ってましたねー。同僚、あいつはそんなもんだと誰一人驚いてませんでしたが。
私も、これはもう我慢できないという出来事を経験し、それで退職し、フリーランスに戻る決心をしました。ヨーロッパではシンセシストとしてのバックグラウンドを持っていなかったので、非常に勇気のいる決断でしたが、結果的にはそうして良かったです。
正式に契約する以前の話なのですが、タコ社長から次期ソフトシンセ開発のために、その実機を日本の知り合いから借りられないかと訊かれました。たまたまそれを所有するヴィンテージシンセ・コレクターの知人がいたので、その人に頼んで長期貸出をしてもらいました。つまり私が楽器国際間レンタルの仲介をした形です。その期間およそ一年。
貸してくれた側は、まずオーバーホールに出し、そこから直接発送してくれたので状態は非常によく、ヴィンテージ機種なので、輸送の振動のせいか、一部に若干の接触不良があった程度。
ところが製品が完成し、実機返却に際して突然、レンタル料を払わないと言い出したのです。強欲タコは。
どうやら今までも、借りた機材のレンタル料金を払ったことがないらしく、もうヨーロッパ内では貸してくれるところがなくなって、外国人の私に頼んだ、と言う次第。
実は私が来て暫くして、突然来なくなってしまった渉外担当は、このレンタル料踏み倒しなどに対するクレーム処理で、ストレスの極限にあったらしいのです。
それはさておき、日本の知人が提示したレンタル料というのは、それはそれは安くて、お友達価格どころじゃない。大事なコレクションを丸一年も手放していたことを思えば、上乗せを提案してもいいくらいの額です。にも関わらずこのタコは、自社の製品を無償提供するからそれで支払いに代える。今でもずっとそうしてきたと言って譲らず、挙句の果ては「到着した時、シンセは壊れていて、修理に大金を払った。だからレンタル料払えない」と言う嘘を書いたメールを、貸主に送りつける始末(!)。
貸した方もさすがに怒りますが、その怒りの矛先、責任追及はは何故か私に向きます。これ、よくある話なのですが、日本人をコーディネーターとして間に入れた、日本人と外国との取引でトラブった場合、日本側が攻めるのは決まって日本人コーディネーターなんですよね。言葉が通じるので言い易いんでしょうね、きっと。その時はさすがに困り果てて、今の私なら絶対に言わないだろうと思うのですが、自分が責任をとって少しずつ払うと言っちゃいました。私も、根っこの部分は見事に日本人ですね。
しかし、さすがに先方も「いやそれはあなたが負担する筋のものではない」と言ってくれたのですが、問題は絶対に払わないと言っているものをどうやって払わせるか。その時の私は雇われている立場ですからね。
で、一計を案じました。info@... service@... admin@... support@... webmaster@... sales@...など、どこの企業でも必ず持っているであろうメアド宛に、私が作成した「お宅の社長、こんなこと言って、レンタル料払わないって言うけど、到着時の動作チェックでは故障箇所などなかったって、報告貰ってるんだよね。これ何かの間違いなんでないかい?」と言う文書を同報メールで送って貰ったのです。こうすれば、社員の大部分にこの大嘘が知れ渡ります。これを通せばいくら強欲タコ社長でも、社員の軽蔑を免れない(とっくに軽蔑されきっているのですが、本人は気づいていませんw)。結果は大成功。彼は代金を支払いました。
一件落着してほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、この支払い分を取り戻そうとしたんでしょう。私の契約2年目を迎えるにあたって、とんでも無いことを言い出したのです。私との契約をフランスで定める最低労働日数に短縮し、基本給を下げる代わりに差額を日本から(架空の名目を作って)請求しろ、と。当然違法です。こんな条件飲んで労働局にバレたら、強制送還ものです。でもタコは、この条件を飲まないと契約更新しない(つまり解雇)、と。
契約日数を減らし、基本給を下げるということは当然、会社が支払う雇用税や社会保障費などが大幅に削減できる上、経費精算分としての支払いは、そのまま会社の必要経費に出来ます。つまり他の外国人社員同様、私も脱税の道具として利用しようと企んでいたのです。辞めるちょっと前私は彼に「スクルージ」とあだ名を付けましたが、ディケンズを知っている同僚があまりおらず、浸透しませんでした(笑)
勿論CDIと言う契約では、こんな条件飲まないからといって、社員の首は切れません。だいたい条件が犯罪ですからね。まだこっちに来て一年で、私がフランスのそういう仕組を良く知らないだろうと踏んで突きつけた条件なんでしょうね。契約書もフランス語だし。彼は社員同士の横の連携が非常に強く、常に情報を交換しあっていることなど、想像出来ていなかったらしいのです。ところが、必要な情報は同僚からどんどん入ってくる。ボスが酷いと、子分が結束するのは世の定めです。
CDI契約の社員を辞めさせたい場合は、経営側はその社員が会社に損害を与えた事実を証明しなければなりません。そんな事実がある筈もないので、私はその違法な条件を拒否するだけで良かったのですが、もう既にここを辞めてフリーになる決心を固めており、「かつてこの会社に在籍た元同僚のネットワーク」を使って、ヨーロッパ中のシンセメーカーや専門誌などにコンタクト付けて、独立後の仕事についてはある程度感触掴んでいたのです。家族を説得するのに、ちょっと苦心しましたが(そりゃそうです。不安感じて当然です)。
私がそんな条件飲めないから辞めるよ、とタコ社長に告げた時、彼は非常にビックリしてました。全く予想外のリアクションだったようです。そりゃそうです。日本からフランスに来て1年ちょっとで、独立してやっていけるなんて普通想像しません。しまいには「君はフランスに居住権を得るために会社を利用したのか?」とまで言い出す。「これはあんたが始めた話だ、私はそれを受けただけだ」と切り返して黙らせましたが。
最後は「君は勇敢だ」と持ち上げだしましたよ(笑)。
しかし退職に必要な書類作成の際、退職手当(まあ、退職金のようなものです)を返納したら、この先も仕事依頼するけど、どお? というのです。これについては、すでに元同僚から絶対に乗るなと言われていたので拒否。なんとこの男、常にその手で退職手当を取り返していたそうなのです。取り返した金は当然、会社ではなく、こいつの懐に収まったでしょうね。
私の数カ月後に退職した同僚は、この件を持って、労働監督局に訴えました。しかしこれを証明する物証が出なかったのか、これで咎められたという話は今日まで聞いていません。なにせ、本当にやばい話になると、絶対に彼はメールを使わず、全て口頭でやってましたから。本人が、証拠を残したくないからこういう話はメールではやりとりしないと言ってたんです。なんと狡猾な。
因みにこの訴えた元同僚は現在、市議選に当選して、市会議員を務めてます。
私の前任だったサウンドデザイナーは、時々助っ人として呼ばれていたのですが、一度もその報酬が支払われなかったらしく、ある時を境に、二度と来なくなりました。もう最低。
彼は今、音楽や楽器産業と決別し、市営バスの運転手しています。素晴らしいサウンドデザイナーでミュージシャンなのに、やめてしまったのは残念です。
因みに、同じく変な条件付きつけられて、腹立てて辞めた非フランス人元同僚も、辞める時タコが狼狽えたと証言してました。移籍した先の会社に、よくも引き抜来ぬいたな、とクレームを付けたという話も聞きました。実際は引き抜きでもなんでもないのですが。
私が退職した同じ年に、更に4人が去りました。その後の2年間で知っている同僚が更に3人辞め、最近聞いたのですが、私が辞めた後入って来て、一年で去っていった人もいるそうです。やれやれ。
でも、この「強欲」を絵に描いたような人物のお陰で、それはそれは強い絆で結ばれた、信頼できる友人が、たくさん出来たのです。私の仕事内容を最初から理解している会計士なんて、探したってまずいませんから。
その部分には感謝しよう。
(完)
2014年07月26日
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